角は男のロマンそのもの。みんな言わないだけで、世の男性は動物の角に並々ならぬ愛を持っております。みんなそうです。そうなのです。
角が生える動物はシカ、ウシ、プロングホーン、キリン、サイの5グループです。それぞれの特徴は別記事で述べますが、みんな違ってみんないい。この中で毎年角が根っこから生え換わるのがシカの角です。毎年生えてくる角は年を重ねるごとに強く立派なものになっていきます。素敵です。今回はそんな鹿の角について僕の愛を共有するべく、論文を読み漁りつつ情報をまとめてみました。
目次
鹿の角は何でできているか
答えは骨組織。緻密骨に似た骨質で構成されています。よく「鹿の角は骨じゃないよ、生え換わるから皮膚とか爪とかと同じだよ」とかって言っている人がいますが、それは正確ではありません。確かにウシの角のように頭蓋骨が延長していっているわけではないため、「骨ではない」というのも間違いではないような気もしますが、組織的には骨です。頭蓋骨とは独立して骨質が成長していきます。下の図のようにpedicle (日本語では前頭骨角突起) と呼ばれる頭蓋骨の突起を台座にして角が伸びていきます。
ちなみに骨のでき方には膜内骨化と軟骨内骨化がありますが、角の骨質は軟骨内骨化と同様の様式でつくられていきます[1]。どうでもいいですね。この鹿の角の成長は動物界で最も速い骨の成長で、種によっては一日2cmも伸びる鹿もいます。
ただ角の骨質は僕らの緻密骨の構造と全く同じではなく、緻密骨と比べてコラーゲン含有量が高く、石灰化の程度が低い特徴があるそうです[2]。
生え換わりのサイクル
種類によって微妙に角の生え換わりの時期は異なりますが、多くの鹿は以下のようなサイクルで角が生え換わります。
春(4月頃) 落角 (角が落ちる)。その後すぐに皮膚に袋角の芽が生えてくる。
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初夏から夏ごろ (8月から9月)まで袋角が伸長。
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秋に向かって角がゴツゴツ、皮膚が薄くなる。
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繁殖期を迎える秋頃に破角し、枯角が完成
写真と一緒に見ていきましょう。
角が落ちた後、小さな角の芽が形成されます。
その後、夏にかけて角が伸びていきます。この時期の角は豊富な血管と皮膚に包まれており、袋角と呼ばれます。この皮膚は英語ではvelvetと呼ばれ、なめらか毛で覆われています。骨質の元となるカルシウムやタンパク質が血液によって運ばれ、角を成長させていきます。
袋角が伸び切ると、血流がストップして皮膚が死んでいきます。その時期になると鹿は角を地面や木にこすりつけ、皮膚を剥いでいきます。袋角から皮膚が剥がれてることを破角といい、下から硬い角、枯角が現れるわけですね。血がでるので心配になりますが、正常な状態です。
年齢を重ねるごとに枝分かれが増えて立派な角になりますが、10歳を超える老鹿になると縮んでいくみたいです。写真は5、6歳の立派なオスだと思われます。
ちなみに袋角は漢方になり鹿茸 (ロクジョウ)と呼ばれます。中国やニュージーランドなどでは養鹿業が盛んで、ロクジョウも生産されています。ちなみに効用は低血圧、自律神経失調症、更年期障害の改善だそうです。
シカ科の動物の角図鑑
ここからはいろいろなシカ科動物の角を紹介していきます。
アカシカ
まずは大本命「アメリカアカシカ」ワピチとも呼ばれますね。アメリカアカシカはシカ科の中では次に紹介するヘラジカの次に大きなシカです。なぜ大本命かというと、僕が好きだからです。大きい体に大きな角、まさにシカの中のシカって感じですよね!角の形状的には日本のシカも同じような形です。もう少し小ぶりですが。
ヘラジカ
お次は「ヘラジカ」シカ科最大の動物です。ユーラシアではエルク、北米ではムースと呼ばれます。体長240-310cm。肩高140-230cm。体重200-825kgと大迫力。大きな平たい角は音を集めるパラボラアンテナのような働きも持っていると考えられています。唾液には植物の成長を促す成分が入っているそうで、なんだか神様っぽいです。
プーズー
最大のシカを紹介したので次は最小のシカ、「プーズー」です。体長は80cmほどでワンちゃんみたいなもんですね。チリのチロエ島の固有種です。角も短くて細いです。かわいい。
その他
ここからはシカ科の動物の変わり種2種類を紹介します。普通シカ科の動物はオスのみ枝角をもちますが、以下の2種は例外です。
- キバノロ (Chinese water deer) だけは雌雄ともに角がない。
- トナカイは雌雄ともに角をもつ。
キバノロ
Chinese water deer、キバノロです。シカ科の中で例外的にオスも角をもたないシカです。しかし、おもしろいことにオスは角の代わりに発達した牙を持ちます。なので「キバ」ノロと呼ばれているわけです。
ちなみにキバノロのキバはかなり長く、平均8cmほどになるとか。英語圏ではVampire deerとも呼ばれるそうです。このキバは邪魔そうですが、顔面筋を使ってある程度動かせるため、食事のときなどは邪魔にならない角度にできるそうです。器用ですね。
トナカイ
最後はお馴染みのトナカイ。シカの仲間では例外的にメスも角を持ちます。これはトナカイの角がメスをめぐる闘争に使われるだけでなく、雪を押しのけて下に生えている草を掘り出すのに利用される、生活に欠かせないものだからと考えられています。
まとめ
いかがだったでしょうか。角にもいろいろあってとても奥が深いです。ぜひ一緒に勉強していきましょう!
参考文献
- J. Price and S. Allen. 2004. Exploring the mechanisms regulating regeneration of deer antlers, The royal science.
- J. D. Currey, T. Landete-Castillejos, J. Estevez, F. Ceacero, A. Olguin, A. Garcia, L. Gallego. 2009. The mechanical properties of red deer antler bone when used in fighting. Journal of Experimental Biology.