スポンサーリンク

獣医学部では通常5年生になると、付属の動物病院などに出て病院実習を始めます。これを日本語では参加型臨床実習といい、カタカナではポリクリニカルローテーション、通称「ポリクリ」と呼ばれます。医学部や薬学部の病院実習の話は聞きますが、獣医の話はあまり知られていないようですので、今回はその概要を僕の経験をもとにお話したいと思います。ただし、大学間で実習内容には差があるようなのであくまで一例と思っていただければ幸いです。

 

 

獣医の臨床実習

獣医学部で行われる臨床実習は大きく、牛や馬を扱う「大動物」と犬や猫を扱う「小動物」の2つに分かれます。実習期間は大学によってかなり異なっており、人数が多い私立大学では実習期間が短く、2週間くらいで終わるところもあるそうです。対して国公立大学では数ヶ月かけてガッツリやるところもあります。

 

また最近の動きとしては山口大・鹿児島大北海道大・帯広畜産大の2つのコンビを中心にヨーロッパの水準を満たす教育を行おうという取り組みが行われており、以前は合計1ヶ月くらいだったのが合計で3ヶ月くらいの実習を行うようになったと聞きます。

 

ヨーロッパでは獣医学部の学生は卒業後ほとんど獣医さんとして臨床の道に進むので、医学部のように臨床実習に力を入れるのは理にかなっていますが、日本では臨床に進む学生は全体の半数ほどと、状況はかなり異なるのでこうしたカリキュラムの改正には賛否両論のようです。と、話がそれてしまいました。今回はその中でも精神的にきつかった小動物の臨床実習がどんなものかをお話したいと思います。

 

スポンサーリンク

小動物臨床実習

まずは臨床に出る前に教養試験という、実習に出るための仮免のようなものを取得するための試験を4年生の終わりから5年の始めにかけて受験します。詳しくは別の記事で書きましょう。それに合格するといよいよ実習スタートです。

 

大学付属動物病院の診療体制

まずは大学の動物病院の診療がどのように行われているかを簡単にお話します。(※あくまで一例なので大学によって違いはありますが、大まかにはこんな感じのところが多いです。)

 

まず大学病院に限らず、動物病院では基本的に手術日診療日の2つがあります。病院によっては日によって午前は診療、午後は手術をするなんてところもありますね。診療日は外来で来たワンちゃんネコちゃんの診察をガンガン勧めていきます。内科・外科と分かれているような病院では内科は毎日診療日、外科は診療日と手術日が交互にあるという感じになっているはずです。

 

そして大学病院では直接診療を回しているのは主に「研修医」と呼ばれる獣医師たちです。ただし、医師と違って獣医師には明確な研修医制度はないので、必ずしも新卒の獣医師ばかりではなく、外の病院で数年働いていた人が修行のために大学病院で研修医として働いている、ということもあります。

 

基本的に大学病院に来た患畜には大学教授や教員が担当としてつき、その監督のもと研修医が実質的な診療を行っていくという形ですね。実習生はその研修医にくっついて診療を手伝いつつ、見て学んでいくという形になります。手術に関しては執刀するのは専門分野の教授や教員で、助手として研修医がつき、実習生は見学もしくは器械出しなどをします

 

診療日

  • 診療時間前:予習

診療が始まるには大体8:30~9:00くらいが多いと思います。実習生はそれよりも前に来て、その日に来る犬猫の紹介状やカルテを読み、予習しておきます。ちなみに研修医は公表できないほどブラックなのでいつ来ていつ帰っているかはわかりません!

 

  • 9:00~:問診

診療が開始し、外来の患畜が順番に診察室に通されます。「今日はどうされましたか?」の問診を研修医が中心に勧めていくので、学生はそれを後ろで見ています。大学によってら学生が問診をやらせてもらえることもあるようです。飼い主さんにも曲者がいるのでなかなか緊張します。

 

  • 身体検査

問診が終わると、まずは基本的な診察を行います。体温、呼吸、心拍数をとるのは大体学生の仕事になります。その後血液検査のための採血になりますが、余裕があるときにはこれも学生がやらせてもらえたりする場合があります。大学もしくは先生によっては絶対やらせない方針の場合もあるみたいです。

 

  • レントゲンまたは超音波検査

身体検査や血液検査のあとは大体レントゲン検査を行います。人と違って動物はじっとしていてくれませんので、押さえるのが学生の仕事です。撮影した画像を見て異常がないか考えつつ、先生の判断を待ちます。超音波検査も一緒で、動物を押さえながらエコー画像を見て勉強するのが学生のお仕事です。この辺りで診断がつく子は飼い主さんにお話してお返ししていきます。

 

ちなみにこうしている間にも次々に新しい患畜が来るので、手がたりなさそうなところを手伝いにい、そうしている間に午前中が終わっています。

 

  • CT・MRI

追加で精密検査が必要だと判断されると、CTやMRIなどに移ります。ヘルニアなどの場合にもMRIを撮ることが多いので、毎日稼働していました。これも動物はじっとしていてくれないので、麻酔をかけての撮影になり、なかなか大仕事です。学生は麻酔記録といって麻酔中のバイタルサインを記録するお仕事をもらうことが多かったです。

 

そんなこんなで診察が終わるのが大体17:00から18:00くらいでした。

 

手術日

手術日は始まる前にミーティングをして、どんな手術を行うのかをみんなで共有して教授の意見を伺うところから始まります。件数は日によって異なりますが、フル稼働でも夜中までかかることが多かったです。

 

手術に関わる人は患畜の体に触れる「内野」とものを出したりライトを当てたりの補助そ行う「外野」に分かれます。学生は基本的には外野で補助をしつつ見学しますが、たまに器械だしなどで内野に入ることもありました。器械出しは「メス!」のときにメスをわたす係です。独特の緊張感があるので、内野に入るのは怖かったです。

 

内野に入るときにはもちろん無菌状態でなくてはいけないので、手の洗い方や術衣の着方、手袋の付け方などを事前に練習しておく必要があります。

 

手術が全て終われば、その日の実習は終わりですが基本的に終わりません。何時までかかるかはあえていいませんが、手術の日は気が重かったです。そして終わったら研究室に行って実験を進めるなんて人もいます。

 

学んだこと

僕が経験した臨床実習は見学や助手的な活動が多く、あくまで「導入編」って感じでした。ただ、どうやって動物病院の診療が行われているかを身をもって学ぶことができますし、採血や問診のしかたなどの技術も身につきます。ともあれ、ここで僕らが臨床実習を終えた後に多く聞かれた感想を申し上げます。

 

  • 絶対に臨床には行かないと固く決心できた。

実習を通して獣医師のブラックさを痛感し、進路の選択肢から除外できたというポジティブな意見です!実際に研修医の先生たちはいつ寝てるのかもわからない上に、月収は十数万円のところも多く、その現実を見せられると、臨床には行かないでおこう思ってしまいます。首都圏の某大学では内部告発によって労基の指導が入ったとか。

 

  • 効率よく雑用をする力がついた。

基本的に学生が行うのは犬を押さえたり、ものを用意したりの雑用です。この意見は自分の実になるものはなく、単に労働力として使役されたことを皮肉る意見です。

 

  • VTさんと仲良くなれた

VTさんとは動物看護師さんのことで、動物のお世話や検査をはじめ動物病院の裏方業務をやってくれる重要な方々です。若い女性が多いので、VTさんとの交流が癒やしになるという学生もいます。ただ怖い人もいます。

 

とまあ、臨床にいく気がないやつばかりの僕の周りではロクでもない意見が多かったです。臨床に興味がある人にとってはとても意味のある実習です。そういう人ははじめから臨床系の研究室に入っていることも多いけど。ともあれ、臨床に行かない人も避けては通れないところなのでがんばりましょう。

 

まとめと問題点

現在、獣医学部は欧米の教育に習って、臨床教育に注力していこうとしているようで、実習期間も伸ばそうとしているようです (大学にもよるけど)。ただ、日本ではまだまだうまく臨床教育が機能していないような気がします。

 

問題点は学生側にも大学側にもあると思います。

 

  • 先生が忙しすぎる

まず日本の大学附属病院は獣医師一人あたりの症例数が多く、毎日てんてこ舞いです。当然先生も学生をかまっている時間がなく、放置プレイになってしまいます。それなのに期間だけ伸ばしても、先生と学生双方が不幸になります。

 

  • 臨床志望の学生ばかりではない

欧米では医学部のようにほぼすべての学生が卒業後臨床の道を進みます。しかし日本では多い学校でも臨床に行くのは5~7割程度で、少ない学校では2、3割です。臨床にいかない学生は、臨床実習より就活や研究に打ち込みたいのに、どんどん臨床実習の期間が伸ばされていく、と不満がたまります。まあ獣医として最低限の臨床技術はないといけないと思いますけどね。

 

 

と、言いたい放題書いてしまいました。周りのみんなが反対意見ばかり言うせいですね!もちろん臨床の知識は獣医師として必須のもので、臨床実習が充実していくことは喜ばしいことだと僕は思います。今後の教育の見直しで、日本の学生にとってよりよい実習が実現することを祈ります。

 

スポンサーリンク
おすすめの記事