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今日はクリスマス!ということで、大活躍中のトナカイさんに関係する記事を書いてみます。

トナカイ2000頭殺処分

2017年5月、ノルウェー政府はトナカイ版狂牛病とも言える「CWD:鹿慢性消耗性疾患」を根絶するための対策として、野生のトナカイ約2000頭の殺処分を許可しました。この群れはノルウェーの全トナカイの約6%に当たるそうで、2018年5月1日までに全頭を殺処分するそうです。

ではCWDとは何なのか?なぜ殺処分しなけらばならないのか、を見ていきましょう。

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鹿慢性消耗性疾患 (CWD)とは?

概要

みなさんはシカの病気について考えたことがあるでしょうか?ほとんどの方はないと思いますが、シカにも我々と同じように感染症をはじめとする様々な病気があります。その中でも近年、注目を集めている病気が鹿慢性消耗性疾患 (CWD)です。これは以前問題となった牛海綿状脳症 (BSE)、いわゆる「狂牛病」の鹿バージョンのようなものです。感染する動物としてこれまでに報告があるものは、アメリカアカシカ、アカシカ、ミュールジカ、オグロジカ、オジロジカ、ニホンジカ、ヘラジカ、トナカイです[1]。

 

 

感染した動物は数年の長い潜伏期間の後発症します。通常、初期の症状は行動異常ですが、それほど気にならない程度です。しかしその後、次第に痩せていき、衰弱する、よだれを垂らすなどの症状が出て、3~4か月で死に至ります。ふらついてよだれを垂らす姿から「Zonbie Deer Disease (ゾンビ鹿病)」と言われることもあります。

 

現在日本での発生はなく(2018年12月現在)、BSEのように食品を介して人に感染するという報告は今のところありません。しかし人への感染が起きないことが証明されたわけではなく、また諸外国ではシカ科の動物で感染の拡大が報告されていることから、注意が必要な病気です。

 

どんな病気?

CWDは「プリオン病」と呼ばれる病気の一種で、ウイルスや細菌ではなくプリオンタンパク質と呼ばれる脳のタンパク質の異常が原因となります。もう少し詳しく言うと、動物の脳に存在するプリオンタンパク質が何らかの理由で、分解されにくい構造をもつ異常プリオンに置き換えられ、それが蓄積することで脳の神経細胞にダメージを与えます。今回のCWDや牛のBSE、人ではクロイツフェルト・ヤコブ病 (CJD)、羊のスクレイピーミンク伝達性脳症などがこのプリオン病に該当します。

 

Histology BSE.  BSE感染牛の脳の組織にできた「穴」。スポンジの様に見える。 Licence under public domain

 

プリオン病の発症の仕方は大きく、孤発性、遺伝性、獲得性に分けられます。

 

1.孤発性

原因不明のものを指し、人のCJDでは80%がこれに当たります。

 

2.遺伝性

その名の通り、プリオン遺伝子に異常がある人で異常なプリオンタンパク質が作られてしまうことで発症します。

 

3.獲得性

感染性とも言われ、プリオンタンパク質を含む肉や内蔵を摂取することで「感染」が起こって発症するというものです。狂牛病の際に問題となったのはこのタイプで、感染牛肉が流通しないように輸入を停止したわけです。

 

 

治療法やワクチンはなく、プリオンタンパク質は通常の消毒薬などで感染性をなくすことができないため、一度蔓延してしまうと、根絶するのが困難です。

 

発生状況

最初の報告は1967年にアメリカの研究施設で捕獲、飼育されていたミュールジカの原因不明の消耗性疾患であると考えられており、現在までにアメリカでは24州で症例が報告されています。その後もカナダでアメリカから輸入したアカシカでの発生や、韓国でカナダから輸入したアカシカでの発生が報告され、最近では2016年以降になってノルウェーのトナカイ (合計23例) やヘラジカ、アカシカで、2018年にもフィンランドのヘラジカでCWDの発生が報告されています。このうち、ノルウェーの症例の一部とフィンランドの症例では北米型とは異なる型のプリオンが原因であることがわかっているようです[1]。

 

アメリカでのCWD発生状況地図 (USGS, 2017)

This map shows the distribution of chronic wasting disease in North America ; showing captive facilities, both current and depopulated, and free-ranging deer (current and before 2017) Licence under public domain

 

日本では2003年から2010年にかけて調査が行われましたが、CWDの発生は確認されていません。

 

CWDの怖さとは

感染が広がりやすい

狂牛病を含めた他のプリオン病では、感染動物の肉や内蔵を摂取することで感染が起こり、唾液や糞、尿などを介した感染は起こらないと考えられています。しかし、CWDではこうした唾液や排泄物、血液などでも感染性を有している可能性が報告されており、そうであればCWDの感染は自然界でかなり効率よく拡大していくと考えられます。

 

鹿肉のCWD管理制度は整備されていない

BSEの発生後、牛肉の検査体制はかなり厳しくなり、プリオンタンパクが蓄積しやすい部位はすべて廃棄したり、屠殺後に獣医師によるBSE検査を受けたりしています (現在見直し中)。しかし、鹿のような野生鳥獣の肉 (ジビエ)はこうした検査が義務付けられていません。もちろん流通するジビエは認可を受けた食肉処理業者によって適切に処理されていますが、CWDの感染をこの段階で摘発することは困難なのです。

 

現在のところ、人への感染の報告がないことや日本のでの発生がないことなどから、日本で鹿肉を食べてCWDに感染するという可能性は低いはずです。しかしカナダでは政府によって鹿肉の消費を控えるようにと警告が発表されるなどしていますので、知識として知っておいた方がいいかと思います。あとは自己責任です。

 

本当に人に感染しない?

2001年にアメリカのCDCから、CWDの感染が疑われた3人のCJD患者についての報告がなされました患者は2名が28歳、1名が30歳と、CJD患者としては若く、2名はハンティングをよく行っており、もう1名はハンターの娘で、鹿の肉をよく食べていたそうです。結論として3人の患者の病態は孤発性CJDであり、CWDとの関連を示す強力な証拠は得られませんでしたが、今後も検討が必要と述べられています[2]。

 

 また別のCDCの報告では1993年から99年にかけてwild game feast、つまりはジビエ料理のフェスティバルに参加していた3名が神経変性疾患で死亡した例について報告されています[3]。解剖の結果、1名がCJDと診断され、2名はCJDとは言い切れないものの同様の海綿状脳症とされました。3名とも定期的に鹿肉を食べていましたが結局このケースでもCWDとの関連は明らかにはなりませんでした。しかしながら、これが直接CWDがヒトに感染する可能性を否定することにはなりません。

 

鹿肉を食べていた人ばかりでこういった死亡例があるわけではなく、あくまで人のCJDや類似した症例全体のごく一部に鹿肉好きな人がいる、といった程度のものかもしれませんが、少し警戒してしまいますね。

 

まとめ

いかがだったでしょうか。冒頭でノルウェー政府がトナカイの殺処分を決定した理由はご理解いただけましたでしょうか。プリオン病は治療法やワクチンがなく、CWDは感染性が強いことが示唆されています。一度野生動物で蔓延してしまったら、根絶は難しく、人に感染することが完全に否定できなければ食肉にすることもできなくなってしまいます。感染が拡大する前に殺処分するというのは防疫上やむを得ない措置と言えるでしょう。まだトナカイ不足にはならなそうですけどね!

 

シカ科の動物で流行の兆しがあるCWDですが、人への感染が確認されるのもそう遠くない、といった見解を示す研究者もいます。増えすぎたシカを食肉利用で減らして一石二鳥!という流れも以前からありましたが、少し慎重にならないといけないのかもしれません。何にせよ野生動物の感染性疾病を管理するのはかなり困難ですが、これも獣医師の使命でしょう。

 

食肉に関するテーマは多くの人々に関係してきます。ジビエが好きなみなさまはこういったことにもアンテナを張っておくとよいかと思います。

 

参考文献

  1. 内閣府 食品安全委員会, 2017 ファクトシート「鹿慢性消耗性疾患(CWD) (概要)」,http://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_cwd.pdf
  2. Belay ED, Gambetti P, Schonberger LB, Parchi P, Lyon DR, Capellari S, McQuiston JH, Bradley K, Dowdle G, Crutcher JM, Nichols CR. 2001, Creutzfeldt-Jakob disease in unusually young patients who consumed venison. Arch Neurol. 58(10):1673-8.
  3. CDC, weekly report, 2003, Fatal Degenerative Neurologic Illnesses in Men Who Participated in Wild Game Feasts --- Wisconsin, 2002. 52(07);125-127, https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5207a1.htm

 

 

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