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高原の牛、ヤクとは

野生のヤクと家畜のヤク

ヤクはチベットからヒマラヤの標高4000~6000 mの高山地帯に生息する、ウシの仲間です。寒さに強くモフモフした毛をもつのが特徴です。ヤクと一括りに言っていますが、家畜化されたものと野生のもので性状が異なり、学名も別のものになっています(家畜ヤク:Bos grunniens、野生ヤク:Bos mutus)。約2000年前に家畜化されたといわれるので、違いが出てくるのも頷けます。

 

野生ヤク (左) と家畜ヤク (右)。 左:Jim, 2016, [Wild yak stuffed], CC BY 2.0

 

家畜ヤクの鳴き声は一般的なウシの「モー」とは異なり、「ブー」と豚のような声だと言われます。実は家畜ヤクの学名Bos grunniensは「豚のように鳴くウシ」を意味しているんですね。対して野生ヤクはあまり鳴かないと言われ、学名のBos mutusは「静かなウシ」を意味しています。おもしろいですね。

 

家畜のヤクはオスでも体重350-580kg メスは250kgくらいです。 僕らがよく知っているホルスタインの牛さんは700 kgくらいなので、随分小さな印象です。モフモフで小さいウシなんてかわいいに決まってますよね。しかし、野生のヤクはかなり大型で、オスは1000 kgを超えるアメリカバイソン級の個体もいるらしいです。さすがにメスはオスよりも3割減くらいの大きさですが。

 

またヤクは基本的に黒い体毛を持ちますが、家畜ヤクは白い毛が混ざるものや真っ白のものもいます。チベットでは白いヤクは縁起物というか、神聖なものとして好まれるそうです。

 

分布

野生のヤクの数は10,000頭と推定されており、中国では国家一級重点保護野生動物として法的に保護されています。対して、家畜化されたヤクは1400万頭ほど存在すると推定されており、インド北西部からチベット、モンゴルやロシアでも飼育されているそうです。野生のヤクの分布は以下のようになっています。

 

מנחם.אל, [Bos_mutus_map], souce : IUCN, CC-BY 3.0

 

ヤクは標高が3000 m以上の高地が生存に適しているとされますが、重要なのは標高ではなく気温であるという意見もあります。ヤクは体の熱を逃がすのが苦手なので、暑い場所では生きられないのです。夏の平均気温が13℃以下が目安だそうです。

体の特徴

耐寒性能

ヤクの体は極端な進化をしています。言うなれば「防寒性特化ボディ」でしょうか。体のパーツが保温性を極める方向でまとまっていておもしろいです。以下のような特徴があるそうです(本江昭夫氏, 2010)。

 

Licence under Public domain

 

➀モッフモフの被毛

まずはなんと言ってもこれでしょう。見た目からもわかりやすいですが、ロングコートのような長い毛を持ちます。よく見ると毛は2層構造になっており、外側は防水性や耐性に優れた硬い毛で覆われ、内側はやわらかくて保温性に優れた毛に覆われているそうです。

 

➁四肢やしっぽ、耳が短い。

四肢が短いのもパッと見てわかります。体幹から離れた末端の部分の面積を小さくすることで、熱が体の外に逃げていくのを防いでいるんですね。ヤクの尾はウシというより馬に近い見た目をしており、尾自体は短く長い毛が垂れ下がっている感じです。

 

③余った皮が少ない

ウシには首や胸に余った皮があります。「胸垂」などと呼ばれる部分です。これはコブウシなど暑い地方のウシでは大きくなることから、表面積を大きくすることで放熱をしやすくする機能をもっていると考えられますが、ヤクは首まわりがスッキリしています。またタマタマの袋もキュッとしているそうです。

インドのゼブー。首から胸にかけてヒダヒダがあります。

 

④乳房まで毛に覆われている

普段乳牛を触っている人ならわかると思いますが、ウシさんのおっぱいには基本的に毛はありません。産毛程度です。しかし、ヤクのおっぱいは毛に覆われているんです。僕もしっかり見たことないのでわかりませんが。ちなみに乳頭も小さめらしいです。

 

と、このようにヤクは寒い場所に順応するために、極端な進化をしてきたんですね。他にも汗腺が少ないというようなこともわかっているそうです。奥が深いです。

 

高地順応

寒さと同時に高地に対する順応もしっかりしています。

①大きな心臓と肺

酸素が薄い高山地帯に適応するため、普通のウシに比べ大きな心臓と肺をもちます。同じ大きさのウシと比べ、心臓は約1.4倍、肺は2倍の大きさを有するそうです。さらにヤクは普通のウシより速く呼吸できるそうです (Wiener et al., 2003)

 

②結合力の強いヘモグロビン

ヘモグロビンは体の中で酸素を運ぶ働きをしています。哺乳類の赤ちゃんは子宮の中でお母さんのヘモグロビンから酸素を受け取らなければならないため、より酸素と結合する力が強い「胎児ヘモグロビン」という特別なヘモグロビンを持っています。僕らを含め哺乳類では生後半年ほどで胎児ヘモグロビンはなくなり、成人型のヘモグロビンに置き換わりますが、ヤクではこれが大人になっても残っていることがわかっています(Sarkar et al., 1999)。このおかげで高地の薄い酸素を逃さずキャッチできているのではないかと考えられています。

 

と、このようにヤクは高地に順応するために、おもしろい進化を遂げているんですね。また高地の紫外線によるダメージから身を守るために被毛は黒く、皮膚の細胞にも色素顆粒が多く含むようになっていると言われます。

 

ヤクの利用

ヤクは肉用、乳用の他、皮や毛を道具や衣類に使用したり、荷物の運搬や、乗用に利用したりとその用途は多岐に渡っています。また糞は燃料や家の壁に利用するなど、チベットの人々はヤクを余すことなく利用しています。チベットの山道で重い荷物を運べるのはヤクだけだといい、チベット人はヤクのことを「高原の船」と呼ぶそうです(本江氏, 2010)。

 

荷物満載で山道を行くヤクさん。頼もしいですね。

近年はヤクの毛を利用したヤクニットなるものが人気になっているそうです。あたたかくて蒸れにくく、丈夫なのが特徴だそうで、カシミヤに匹敵する高級品とも言われています。一着どうでしょうか。

 

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まとめ

いかがだったでしょうか。チベット人と深いつながりのあるヤク。彼らのことを知るきっかけになればと記事を作成しました。興味を持っていただければ幸いでございます。

今回記事を作成しながら勉強してみると、ヤクは獣医学的にもおもしろい知見に溢れていて、とても興味深かったです。まだまだ伝えきれていない魅力もあるかと思いますので、随時追記してきたいと思います。

日本でヤクを見られる場所は限られていますが、「岩手サファリパーク」「那須サファリパーク」で飼育されているそうです (2018年12月現在)。また東チベットに行けば簡単に見られます。詳しくは以下の記事で。

 

 

参考文献

本江昭夫. 2010. ヤクの飼養管理. 北海道民族学会第二回講演. 帯広

 

Sarkar, M.; Das, D. N.; Mondal, D. B. 1999. "Fetal Haemoglobin in Pregnant Yaks (Poephagus grunniens L.)". The Veterinary Journal. 158 (1): 68–70.

 

Wiener, Gerald; Jianlin, Han; Ruijun, Long, 2003. "4 The Yak in Relation to Its Environment", The Yak, Second Edition. Bangkok: Regional Office for Asia and the Pacific Food and Agriculture Organization of the United Nations, ISBN 92-5-104965-3.

 

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