2018年からコンゴ民主共和国でエボラウイルス病の流行が拡大しているとの記事を書きましたが、エボラウイルス病の脅威にさらされているのは人間だけではありません。今回はそんなエボラウイルス病の動物への影響について見ていきたいと思います。
ゴリラとチンパンジーでの流行
被害状況
人では2014年から2016年に西アフリカでエボラウイルス病の大流行が起こりましたが、動物での流行はあまり知られていません。しかし、1990年代にはエボラウイルス病によってゴリラやチンパンジーの全個体数の3分の1が犠牲になったと推定されています。
人での流行に重なるようにして、保護区やその付近の森でゴリラやチンパンジーの死体が見つかることもあり、人における2002年頃のコンゴとガボンの流行では、およそ5000頭ほどのゴリラがエボラウイルス病で死んだと推定されています[1]。また1995年頃のガボンでの流行では、保護区内のゴリラの90%が死んだとも言われています。
チンパンジーについては数が正確には推定されていませんが、1~3万頭ほどがこれまでにエボラウイルス病によって死んでいると考えられています。
致死率
人でのエボラウイルス病の致死率は、正しく処置が行われれば50%ほどと言われますが、ゴリラでは95%、チンパンジーは77%と推定されているそうです。まあ人でも無処置なら致死率は90%などとも言われますので、感受性は似たようなものなのかもしれません。ちなみにこれはザイールエボラウイルスの話だと思われます。
ワクチンは?
人では有効なワクチンの開発に成功し、現在コンゴ民主共和国で使用されるに至っていますが、ゴリラやチンパンジーではどうでしょうか。
2017年3月のScientific Reportsに経口ワクチンの試験結果についての論文が掲載されました[2]。論文によれば「filorab1」というワクチンを経口投与したところ、一回で充分な免疫効果が得られたそうです。ワクチンを餌に混ぜて食べさせられれば、野生の霊長類をエボラウイルス病から守れるようになりそうです。
まとめ
今回はチンパンジーとゴリラのエボラウイルス病による被害状況とワクチン開発について見てきました。3分の1の個体が死んでいるとは、かなり衝撃的ですね。今後のワクチン研究に期待です。
しかしながら、経口ワクチンの論文を見てみると、題名が「The Final (Oral Ebola) Vaccine Trial on Captive Chimpanzees? 」となっており、最後のワクチン試験?と書かれています。実は動物愛護の風潮が強くなった昨今では、動物実験への規制がどんどん厳しくなり、飼育下のチンパンジーを用いた実験は禁止されました。そのためこれが最後の実験?と書かれているわけです。
不要な動物実験や、劣悪な環境での飼育等は当然規制されるべきですが、時に過剰とも思われる動物愛護の声により、野生動物を守るためのワクチンの実験ができなくなるのは皮肉なものですね。動物実験については様々な声があり、非常にデリケートな問題だと思いますが、人と動物がよりよく暮らせる未来を目指して、最適な在り方を考えていかなければいけないでしょう。
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参考文献
- Magdalena Bermejo1, José Domingo Rodríguez-Teijeiro, Germán Illera, Alex Barroso, Carles Vilà, Peter D. Walsh. 2016. Ebola Outbreak Killed 5000 Gorillas. Science, 314, 5805-1564.
- Peter D. Walsh, Drishya Kurup, Dana L. Hasselschwert, Christoph Wirblich, Jason E. Goetzmann & Matthias J. Schnell, 2017, The Final (Oral Ebola) Vaccine Trial on Captive Chimpanzees? Scientific Reports