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「がん」は伝染るのか?

「がん」は遺伝子が変異した異常な細胞が、際限なく増殖を続けることで正常な生理機能を障害してしまう病気です。日本人の死亡原因の第1位でもあります。基本的にがん細胞は自分自身の細胞が変異したもので、がん細胞が人から人へと感染することはほとんどないと考えられています。

子宮頸がんなどの一部のがんはウイルス感染によって引き起こされることが知られていますが、これはあくまでウイルスによって自分の細胞の遺伝子が変異してがん細胞になるのであって、がん細胞自体が感染しているわけではありません。

しかし、自然界では例外的に「感染するがん」があることが知られています。それが次の3つです。

 

  • タスマニアデビルの顔面腫瘍病
  • イヌの可移植性性器腫瘍
  • 二枚貝の播種性新形成

 

今回はそれぞれの感染する「がん」についてご紹介したいと思います。

 

タスマニアデビルの顔面腫瘍病

上記3つのうち特に問題となっているのはこのタスマニアデビルの顔面腫瘍病で、感染すると致死率はほぼ100%です。1996年に初めて報告されて以来、個体数は14万匹から2万匹にまで激減しており、今後30年以内に絶滅してしまうのではないかと懸念されています。

タスマニアデビルはタスマニア島にのみ生息する固有種で、カンガルーと同じ有袋類の仲間です。通常は他人の細胞が体に入っても、免疫機構によって異物として認識されて排除されますが、タスマニアデビルではがん細胞が定着し、増殖・転移してしまいます。これはせまい地域にのみ生息することから遺伝的な多様性が低く、細胞の特徴がみんな似ているために免疫機構が見逃してしまうためではないかと考えられていますが、詳しいことは現在も研究が続けられています。

 

タスマニアデビルは攻撃的な性格で、別個体とよくケンカをします。その際に顔を噛み合うことで顔面の腫瘍細胞が伝染していきます。

 

 

イヌの可移植性性器腫瘍

文字通りイヌの生殖器にできる腫瘍で、交尾によって伝染します。タスマニアデビルの腫瘍と異なり、転移はしにくい腫瘍なため、これによってイヌがどんどん死ぬということはありません。大流行といったことは起きていませんが、世界の様々な地域で散発的に症例が報告されています。

 

遺伝子解析から、この腫瘍は1万年以上前のオオカミを起源とすることが示唆されていて、太古の昔からイヌからイヌへ脈々と引き継がれてきたおもしろい存在です。ずっと生きているということは、生物的には大成功を収めている優秀な腫瘍とも言えるかもしれませんね。

 

タスマニアデビルの例では遺伝的に個体間の差が少ないために、感染が成立するという説があるとご紹介しましたが、このイヌの腫瘍の場合にはオオカミから始まり、様々な犬種で発生していることから、遺伝的に近いことが必ずしも感染に重要でないとも考えられます。別の説としては癌細胞がイヌの免疫を抑制するような優れた機構をもち、自分が排除されないような環境をつくっている、ということが考えられています。実際に通常のがんでもこういった現象は広く認められます。いずれにせよ、さらなる研究が必要、といったところでしょうか。

 

二枚貝の播種性新形成

哺乳類ではありませんが、二枚貝でもがんが伝染していることが近年の研究でわかってきました。この播種性新形成という病気は白血病のような疾患で、複数種の二枚貝で起こることがわかっていました。このがんの遺伝子を解析したところ、何種類かの貝で同じ遺伝子のがん細胞を持つことがわかり、どこかで発生した1つのがん細胞が、種の垣根を越えて伝染している可能性が明らかになりました。

注目すべき点は「種を越えて」伝染していることです。タスマニアデビルとイヌの例はあくまで同種間での伝染でしたが、この場合は異なる種の貝に伝染しているのです。もしかすると僕たちが思っている以上に様々な種で伝染性のがんが発生、伝播しているのかもしれません。

 

貝はほとんど動かず、個体間の接触がないと考えられるため、がん細胞が海中を漂い、別の個体に取り込まれることで伝染すると考えられています。なんだか怖いですね。

 

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人ではがんは伝染るのか

今のところ、特殊な場合を除いてがんは人から人へ伝染らないと考えられています。実は人に他人のがん細胞を植え付ける実験が1950年ごろに行われています。今では倫理的に不可能そうな実験ですね...。志願したボランティアの囚人に他人のがん細胞を注射したそうですが、結果的にはほとんどがんは定着しなかったそうです。ごく一部、著しく免疫が低下していた人のみでがんが発生したそうです。

 

またタスマニアデビルは相手の顔に噛みつき合うようなケンカがよく起こるために、腫瘍が顔から顔へ伝染ってしまいますが、人では腫瘍が他人に接触するような機会はあまり考えられませんしね。しかしながら、今後研究が進めば伝染するがんがもっと増えるかもしれません。こうしたがんを研究することで、がんの増殖メカニズムの究明や治療法の開発に役立つことは間違いないと思います。今後の動向に注目したいです!

 

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