【感染拡大】豚コレラとは何か?どれくらい危険?これからどうなる?
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今獣医業界でホットなニュースと言えば、「豚コレラ」ですね。「とんこれら」とも「ぶたこれら」とも読むそうですが、獣医は「とんこれら」派の方が多いと思います。我々獣畜産業界の人々は「トンコ」と言ったりもします。今回はそんな豚コレラの発生状況や病気の特徴について見ていきたいと思います。

 

ちなみに今中国で問題になっている「アフリカ豚コレラ」は「豚コレラ」とは異なる病気です。ウイルス自体が違いますので、混同なされませぬよう。さらに言えば、人が感染する「コレラ菌」とはかけ離れたものです。豚コレラが発生した際に、コレラ菌の先生がインタビューされていたのは業界では笑い話です。

 

豚コレラの感染拡大

2018年9月9日に岐阜県の養豚場で26年ぶりに「豚コレラ」が発生し、その後も次々と感染は広がり、12月25日に同県内では6例目となる養豚場での発生が確認されました。野生のイノシシの検査では新たに1頭の感染が確認され、これまでに確認されたものと合わせ、感染例は81頭に上っています。また愛知県犬山市でも野生のイノシシ2頭で感染が確認されています。

 

出典:岐阜県公式HP 報道発表資料

 

6件目の発生は飼養数が8000頭近い、かなり大規模な農場で起こり、精密検査を行った20頭中2頭で感染が確認されたため、感染拡大を食い止めるために自衛隊を動員して農場で飼育される約8000頭の豚を27日までに全頭殺処分しました。

 

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豚コレラってどんな病気?

概要

豚コレラは豚コレラウイルスの感染によって引き起こされる、豚やイノシシの病気です。とても伝染力が強く、致死率も高いのが特徴です。日本では家畜伝染病予防法で定められた、特に強力な措置が必要とされる28の「法定伝染病」の一つです。人には感染しません!

 

豚コレラは獣医業界では「口蹄疫」などと肩を並べる横綱級の病気と言っていいでしょう。家畜の感染症のビッグネームは他にもありますが、口蹄疫や豚コレラなどは今日の日本では見られない病気になってきており、逆に言えば侵入すると大問題になるものです。こういった病気の例を挙げるとこんな感じかなと思います。他にもありますが。

 

牛 → 口蹄疫

馬 → 馬伝染性貧血、アフリカ馬疫

豚 → 口蹄疫、豚コレラ、アフリカ豚コレラ

鶏 → 鳥インフルエンザ、ニューカッスル病

 

豚コレラも長い間国内での発生がなく、ワクチン接種をやめて清浄国として認められていたために今回こんなに騒いでいるわけです。国内の豚は全てワクチンを打っていないため、封じ込めができなければ感染が一気に拡大します。

 

症状

症状は多岐に渡ります。農研機構によれば、以下のような症状を示すそうです。

 

感染動物との直接接触、その鼻汁や排せつ物の飛沫(ひまつ)・付着物との間接接触により感染が成立し、急性から慢性まで多様な症状を示す。

感染豚は、41度以上の発熱と食欲不振や、うずくまりといった症状に加えて、発熱時には血液中にウイルスが出現し白血球減少症を起こす。

急性では運動失調、後躯(こうく)まひなどの神経症状や耳介、尾、下腹部等に紫斑が見られるようになり、数日から2週間で死亡する。慢性では、初期症状を示した後、いったんは回復するが再び発熱、食欲不振を示し、最終的には削痩し、1カ月から数カ月の経過で死亡する。

 

致死率が高く豚に強い症状を引き起こす病気ですが、逆に言えば症状を示してくれる分、感染を見つけやすく対処しやすいとも言えます。

 

 

発生状況

豚コレラはアジアを中心に発生がありますが、日本では1992年以来26年間発生がなく、豚コレラフリーな国=「清浄国」として国際社会で認められていました。日本でこのように豚コレラの撲滅ができたのは見る角度によっていろいろな要因がありますが、一番は優れたワクチンの開発に成功したからだと言われます。

 

出典:農林水産省HP「豚コレラの発生状況

 

 

対策

日本での対策は「摘発・淘汰」です。つまり今回のように感染した豚が見つかり次第、即殺処分します。ワクチンは国内での発生が見られなくなってしばらくした、2006年以降使用していません。また都道府県の機関で定期的に抽出検査を行って、感染がないことを確認しています。

 

豚や豚肉の輸入に関しても特別な許可がない場合には、豚コレラが常在している地域や、発生が起こっている地域からは輸入を禁止しており、検疫も行っています。

 

撲滅の歴史

どうして撲滅できた?

前述したように豚コレラワクチンは日本国内において一度撲滅されています。もちろん世界的には撲滅はされていません。撲滅された病気は人類の歴史で2つあり、一つは有名な天然痘、もう一つは牛疫という牛の病気ですね。豚コレラはこの2つの病気と同様に、以下のような撲滅が簡単な4つの条件を満たしてます。

 

①感染すれば症状が出る

②感染する動物が限られている (豚コレラはブタとイノシシ)

③優れた診断法がある

④優れたワクチンがある

 

これに加えて、日本では各都道府県に家畜保健衛生所と呼ばれる、家畜の病気を監視する機関が設置され、異常がある動物をすばやく摘発・処理する防疫体制が整っていたことで豚コレラの撲滅が達成できたと言われます。

 

日本の豚コレラ撲滅年表

1969年 GPE-生ワクチン接種開始

1992年 最終発生

2006年 ワクチン接種感染中止

2007年 豚コレラ清浄国として承認

 

 

ワクチン接種をやめるのはなぜ?

経費削減

これは単純ですね。豚コレラが常在する地域で、感染を抑えるためには高いワクチン接種率を維持する必要があります。以前の日本でも80%以上の接種率を維持していましたがが、接種費用は換算すると年間40億円かかっている計算でした。これに加え、豚を捕まえて注射をするという労働コストもかかっていました。接種せずに防疫できればそれにこしたことはありませんよね。

 

清浄国として認められるため

これは少しわかりにくいかもしれません。ワクチンは本来、病気の発生の恐れがある地域で利用されるものです。そのためワクチン使用国は病気が存在する国として見られます。そのため清浄国として認められるためにはワクチンの使用がないことが重要なのです。

 

またワクチンを使用している段階では汚染のリスクがあるワクチン接種国からの輸入を制限できないのです。これは貿易上の問題なのですが、輸入検疫が非関税障壁(関税以外の輸入制限)としてホイホイ利用されないように、輸入制限をかけるためには科学的な根拠が必要であり、自国で行っている防疫措置以上の制限を他国からの輸入食品のかけることができません。

 

つまり清浄国となることで、汚染リスクのある国からの輸入を禁止することができ、逆に日本の豚肉はどこにでも輸出できるようになるのです。

 

 

生ワクチンの病原性復活リスク

豚コレラワクチンは生きているウイルスを弱めて接種するタイプの「生ワクチン」と呼ばれるものです。もちろん接種するものには病原性はありませんが、生きたウイルスであるために、変異や病原性に復帰が生じることがあります。日本でもワクチン接種を続けている中で、ワクチン株の病原性が復帰したものが出たと騒がれたことがありました。結局は違ったので問題にはなりませんが、やはり生ワクチンではそういいった危険がゼロとは言えません。

 

 

なぜ再び発生した?

再発生は起こり得ること

このように一度は撲滅に成功した日本ですが、2018年に再び発生してしまいました。世界的にみれば、まだ発生が多く見られる地域もあることから、こうした再発生はある意味予想の範囲内ではあります。日本でも再発生を素早く発見できるように定期的な抽出検査などの監視を行っていました。実際に同じ様に一度清浄国となったイギリスやオランダなどでも過去に再発生が起こっています。ではこうした再発生はどうやって起きているのでしょうか。過去の事例を見てみたいと思います。

 

 

イギリスの再発生例から学ぶ

イギリスの記録では1967年に清浄化を完了していますが、1972年3農場で発生が起きましたが収束し、2000年に再び16農場で発生が起きています。2000年の発生では16農場に感染が広がり、農場で淘汰された豚は4万頭に達し、移動制限に伴って豚が過密化したためにさらに15万豚ほどが処分されたそうです。

イギリスでの発生の原因ははっきりとわかっていませんが、不法輸入した豚由来の食材が飼料などに混入した可能性が高いと見られています。その後2001年にイギリスでは口蹄疫が発生しましたが、この際近隣の中華料理店の残飯に不法輸入した食材が含まれていたこと明らかになったのです。

 

 

今回の発生の原因

現在のところ感染経路は特定できていません。今後はっきりと明らかにすることも困難であると思います。2010年発生した宮崎県の口蹄疫でも「中国の稲わら」があやしいだとか「農場主の汚染地域への旅行」が原因だとかさまざまな憶測や根も葉もない噂が飛び交いましたが、結局わかりませんでした。

 

原因の一つとしてはそうした農場で使用する輸入製品があるかもしれませんし、他にも海外に行った人やその持ち物に付着していたとしても不思議はありません。イギリスのように誰かがこっそり汚染地域から豚肉を持ちこみ、それが豚の餌に混入したり、イノシシに入ってから豚に感染が拡大したりした可能性もあるでしょう。

 

いずれにしても豚コレラはいつ侵入してもおかしくなかった病気で、ルートはいくつも考えられます。犯人探しをしたい心情はわかりますが、今はそれよりも感染拡大をどうやって食い止めるか、またはなぜ感染拡大を許してしまっているのかです。初の感染が確認されてから、同地域の農場では徹底した防疫対策が行われたはずですが、こうして新たな感染が起こってしまっています。

 

 

なぜ感染の拡大が止まらない?

これに関しては詳しいことはわかりません。わかれば止まっていますもの。「気温が低いと充分に効果を発揮しない消毒剤もあるから注意」と北海道大学の先生がテレビにコメントしているは見ました。他にもイノシシに入ってしまっているため、イノシシから排出したウイルスを小動物が運んでいることも考えられるため、豚舎への侵入防止対策をしっかりしないといけません。いずれにせよ拡大を防ぐためにも関係者が気を引き締めるのはもちろん、一般の方々も気軽に養豚施設の近づいたり、不用意に近づいたりしないようにしたいですね!まあそんな機会ない人がほどんどでしょうけど!

 

今後の対策

豚コレラが発生した際に行われる法的に定められた措置やその他の対策にはどのようなものがあるでしょうか。

 

移動制限

発生した農場から3km圏内では豚の移動が禁止され、10km圏内の農家からの豚の搬出も制限されます。移動制限は防疫措置 (殺処分や消毒) 完了後28日、搬出制限は18日間続き、その間に区域内で新たな発生がなければ、制限が解除されます。

 

 

ワクチン

予防的ワクチンは変わらず禁止されたままですが、感染の拡大が止まらない場合には、その地域の周辺に位置する農場などでワクチンの緊急接種が行われると思います。口蹄疫の際にもこうしたワクチン接種が行われました。

 

ただ、今回は野生のイノシシでも感染が拡大しています。そのため、農水省は食べるワクチン (餌ワクチン、ベイトワクチン) を野山のばらまいて、これを抑える作戦に出るようです。実際にドイツなどでこの方法が成功しているようなので期待したいですね。

 

殺処分

発生農場では全頭殺処分が行われますが、予防的に感染の危険がある農場での殺処分は行われない予定です。宮崎県の口蹄疫の際にはこうしたことも行われましたが、豚コレラウイルスは伝染力が強いですが、口蹄疫に比べればまだマシなので、予防的殺処分は不要と判断されています。

 

 

豚舎の衛生対策

これは当たり前ですが、農家に入る車両、人の衣服や靴はしっかりと消毒する必要があります。上にも書きましたが、冬場は気温が低くなり、充分に効果を発揮できない消毒液もあるようなので注意が必要です。また豚舎のネズミや野鳥が侵入しないような対策もとる必要があるでしょう。

 

まとめ

豚コレラがこのまま拡大していくと、日本の養豚産業は大打撃を受け、世界的な信用にも関わってきます。もしかすると消費者にも影響が出てくるかもしれません。今ので僕は応援することしかできませんが、全国の畜産農家さん、獣医さんはとても大変だと思いますが、なんとか力を合わせて頑張ってほしいです。

 

日本では国の中心機関だけでなく各都道府県でも高いレベルの検査をすることができ、防疫体制は世界の国々と比較してもとても整備されているものだと思っています。今回のケースが、今後素早く収束し、日本の優れた防疫対策を象徴する、豚コレラ封じ込めのモデルケースとなるように祈っています。

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