【犬のがん治療】オプジーボとは?PD-1, PD-L1抗体の犬への応用研究の現在
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2018年にのノーベル医学生理学賞を京都大学本庶佑名誉教授が受賞されました。本庶先生はがんの新たな治療薬として注目を集めている、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ (商品名オプジーボ) の開発に大きく貢献しました。この薬はこれまでの治療で治らなかったがんにも効果を示し、「夢の新薬」とも呼ばれています。今回はそんなニボルマブの獣医療における応用研究についてご紹介します。

 

ニボルマブのメカニズム

いろいろな記事で作用のメカニズムは紹介されていますが、ここでは簡単3ステップでわかりやすくご紹介できればと思います。

免疫チェックポイントとは

ニボルマブは免疫チェックポイント阻害剤と言われます。まずこの免疫チェックポイント自体が聞き慣れない言葉ですね。僕らの体は複雑な免疫システムによって病気から守られており、外から病原体が入ってきたり、異常な細胞が現れたりすれば免疫が活性化してこれらを排除します。免疫の活性化は体を守る正常な反応ですが、あくまでバランスが大切で、免疫が過剰に活性化してしまうと自分の体をも傷つけてしまいます。そこで、そうならないように免疫を監視してうまく調節してやる機構が必要になり、この行き過ぎた免疫を抑える機構こそが免疫チェックポイントシステムです。そしてこの機構を担う分子が免疫チェックポイント分子であり、その一つがPD-1ということになります。

 

PD-1にはPD-L1と呼ばれる相方がいて、この2つが結合することで免疫が抑制されます。PD-1は免疫病原体や異常な細胞を攻撃するのに中心的な働きをするT細胞の表面にある突起で、これが別の細胞の突起であるPD-L1とくっつくことで、T細胞の元気がなくなるわけです。免疫の活性化が続くといろいろな細胞でPD-L1がニョキッと生えてきて、T細胞をなだめにいくといった感じですかね。

 

他にも免疫チェックポイント分子はいくつか見つかっていて、PD-1と並んで有名なのはCTLA-4などですね。CTLA-4を阻害する薬も既にヒトの医療では実用化されています。

 

がんによる免疫チェックポイントの悪用

このように行き過ぎた免疫を抑える機能は僕らの体にとって大切な機能ですが、これを悪用するのががん細胞です。一部のがん細胞はPD-L1を自分の表面にたくさん生やします。この敵のPD-L1を、T細胞は味方が自分を止めに来てくれていると勘違いしてしまうのです。

 

その結果、T細胞は元気がなくなり、攻撃するはずだったがん細胞を取り逃がしてしまいます。こうすることでがん細胞は免疫系から逃れ、どんどん増殖できるようになるというわけです。

 

免疫チェックポイント阻害剤

免疫チェックポイント阻害剤とは、その名の通り免疫チェックポイントシステムが発動しないようにする薬です。その一つであるニボルマブはPD-1に結合してキャップをすることで、PD-L1が結合できないようにするものです。これによってがん細胞がT細胞の活性化を邪魔するのを防ぐことができます。

 

こうすることでT細胞は元気を取り戻し、がん細胞をやっつけることができるようになる、というわけです。このPD-1をキャップをするのに用いられる分子は主に、人工的に作られた抗体であるため、この阻害薬のことを抗PD-1抗体などと呼んでいます。

 

逆にがん細胞側のPD-L1にキャップをしてT細胞のPD-L1にくっつけなくする、という戦略もあり、これはご想像通り抗PD-L1抗体と呼ばれるわけですね。

 

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犬のがん免疫療法

ここまでは人のがん治療で活躍する免疫チェックポイント阻害薬の話をしました。では獣医療ではどうでしょうか。実は獣医の世界でもこの免疫チェックポイントを動物に応用しようという研究が行われています。2017年に北海道大学の先生が出した論文がプレスリリースで配信されていますので、ちょこっとご紹介致します。

 

犬の抗PD-1、PD-L1抗体

2017年の8月、Scientific Report誌に犬の免疫チェックポイント阻害薬の開発に関する論文が掲載されました。記事によれば北海道大学と東北大学、および扶桑薬品工業で構成する研究グループが、イヌのがん治療に有効な免疫チェックポイント阻害薬(抗 PD-L1 抗体)の開発に世界で初めて成功したそうです (Maekawa et al., 2017)。

 

論文を読んでみると、開発したイヌキメラ抗 PD-L1 抗体は、口腔内悪性黒色腫と未分化肉腫に罹ったイヌに対する投与試験で、一部のイヌで明らかな腫瘍の退縮効果が認められ,治療薬としての有効性が示されたとあります。

効果を示したのは悪性黒色腫という腫瘍を持つ犬はで 14.3%(1/7 頭)未分化肉腫という腫瘍では 50.0%(1/2 頭) であり,また悪性黒色腫では肺に転移した後の生存期間を延長する効果が示唆され、重篤な副作用は見られなかったとあります。ヒトのPD-1、PD-経路の阻害は悪性黒色腫、いわゆるメラノーマという腫瘍を罹患した人のうち2割程度で高い効果を示すので、犬でもこれは同じくらいだと言えます。

 

Fig 3: A canine chimeric monoclonal antibody targeting PD-L1 and its clinical efficacy in canine oral malignant melanoma or undifferentiated sarcoma (Maekawa et al., 2017) CC BY-SA

 

図のように口の中でできた腫瘍が薬の投与でほとんどわからないくらい小さくなっています。真ん中が投与開始から10週後、一番右の図が投与開始から34週後の状態だそうです。

 

Fig 5: A canine chimeric monoclonal antibody targeting PD-L1 and its clinical efficacy in canine oral malignant melanoma or undifferentiated sarcoma (Maekawa et al., 2017) CC BY-SA

 

生存期間もこんな感じで、薬を投与しなかったワンちゃん (点線) に比べ、薬を投与したワンちゃん (実線) では長生きできています。

 

悪性黒色腫は転移しやすい腫瘍とされており、肺などに転移してしまうと治療が難しいと言われます。しかしこの研究では転移巣も縮小させる効果が示唆されており、今まで助からなかったワンちゃんがこの抗体医薬によって救われる可能性が期待されます。現在も研究が進められていますが、まだ研究段階というところで、今後の実用化に期待したいですね。

 

 

参考文献

  • Naoya Maekawa, Satoru Konnai, Satoshi Takagi, Yumiko Kagawa, Tomohiro Okagawa, Asami Nishimori, Ryoyo Ikebuchi, Yusuke Izumi, Tatsuya Deguchi, Chie Nakajima, Yukinari Kato, Keiichi Yamamoto, Hidetoshi Uemura, Yasuhiko Suzuki, Shiro Murata & Kazuhiko Ohashi. 2017. A canine chimeric monoclonal antibody targeting PD-L1 and its clinical efficacy in canine oral malignant melanoma or undifferentiated sarcoma. Scientific Reports volume 7, Article number: 8951

 

 

まとめ

今回は現在、製薬業界を席巻している免疫チェックポイント阻害薬について、その獣医療への応用に着目してご紹介しました。実はがんだけではなく、炎症が長く続くような慢性の感染症などへの応用研究や、リウマチなどの自己免疫疾患と免疫チェックポイントとの関連など、様々な研究がなされております。今後、そういったものも紹介していければと思います。お付き合いありがとうございました。

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