「鳥葬」をご存知でしょうか。鳥葬はチベット人にとっては一般的な葬儀の方法で、死んだ人の肉をハゲワシなどの鳥の食べさせるものです。2017年の夏、チベットの文化とヤクの放牧を見てみようと思い、僕は東チベットと呼ばれる中国四川省の西側のエリアをぶらぶらしていました。そのとき、この鳥葬を目にすることができたのでここでご紹介します。
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東チベット旅行
東チベットエリアはチベット文化圏でありながら、チベット自治区のように入境許可証などが必要なく、簡単に旅行することができます。※ただ外国人観光客に対する措置は変化することが多く、特にラルンガルゴンパのあるセルタは外国人立ち入り禁止になっている時期が多いようです。
僕は関空から四川省の中心地である成都に降り立ち、そこからバスで東チベットをめぐりました。まず成都から西に行った康定 (カンディン)、さらに西の理塘 (リタン)、そこから北上した甘孜 (カンゼ)、もう少し北の色達 (セルタ)の4ヶ所が僕の行った主な場所です。
このうち僕はリタンとセルタで鳥葬を見ました。
鳥葬見学
wikipediaによると鳥葬はこのように説明されています。
ー前略ー 鳥葬はチベット高地に住むチベット人にとって、最も一般的な方法葬儀に相当する儀式により、魂が解放された後の肉体はチベット人にとっては肉の抜け殻に過ぎない。その死体を郊外の荒地に設置された鳥葬台に運ぶ。それを裁断し断片化してハゲワシなどの鳥類に食べさせる。これは、死体を断片化する事で血の臭いを漂わせ、鳥類が食べやすいようにし、骨などの食べ残しがないようにするために行うものである。
宗教上は、魂の抜け出た遺体を「天へと送り届ける」ための方法として行われており、鳥に食べさせるのはその手段に過ぎない。日本では鳥葬という訳語が採用されているが、中国語では天葬などと呼ぶ。また、多くの生命を奪ってそれを食べることによって生きてきた人間が、せめて死後の魂が抜け出た肉体を、他の生命のために布施しようという思想もある。ー後略ー
鳥に食べてもらうことで、遺体を天に送り届ける、とはなんだかロマンチックな響きです。しかし実際の現場を想像するとロマンチックとはかけ離れたものであることは想像に易いですね。それでは僕が訪れたリタンとラルンガルゴンパの鳥葬についてご紹介します。
リタン
リタンは開けた草原の中にある素朴な街で、とっても気持ちのいいところです。標高は4000 mを超えており、世界で最も高い場所にある街の1つです。絶対高山病になるマンの僕はしっかり高山病になり、2日間くらいは頭痛と吐き気に襲われました。
リタンの鳥葬は町外れの開けた草原にある、鳥葬場で早朝に行われているそうですが、曜日によってやったりやらなかったりするようです。宿の人や街の人に鳥葬がいつ行われるのかを聞き込み、どうやらその週の水曜日の午前7時頃に行われそうだという情報を入手しました。
興味本位で覗きにいくのも気が引けましたが、チベットの人たちがどう思っているかはともあれ、観光客もよく見に来てるよ、とのことだったので、僕も行ってみることにしました。
一時間ほど待っても誰も来ず、今日はやらないのかなと思っていると、街の方から車が数台やってきました。どうやら少し遅れての鳥葬開始です。
近づくのは儀式の邪魔になりそうだったので、遠くから見学します。まずは儀式に使うカラフルな旗を立て、僧がお経を唱えます。これで魂が肉体から開放される、ということでしょう。遠くて申し訳ないですが、写真左側で儀式が行われている間に、右側の丘にハゲワシがどんどん集まってきています。遠いね!
そして儀式が終わると、白い防護服のようなもので全身が包まれた、解体職人が現れ、ご遺体を細かく解体していきます。遠くからですが、ヒトの形はわかるもので直視できないシーンもありました。解体を行いつつ、小さくなった肉片はハゲワシが奪い合うように食べていきます。
解体が終わると、あとはハゲワシが食べ終わるのを待ちます。儀式はこの辺りで終わったようで、儀式を手伝っていたおじさんたちが近づいてもいいぞ、というようなジェスチャーをしてくれました。
ハゲワシたち。顔が血まみれになっているやつもいます。
動物の解剖には慣れていますが、やはりヒトは話が違って、衝撃的な光景でした。欧米人のカップルも一緒に見ていましたが、「Oh...」と言って途中で帰っていきました。やはりあくまでも宗教上の儀式であってショーではありません。僕は儀式の一部始終を見ましたが、見に来てよかったのかと悩みつつ帰路につきました。
セルタ (ラルンガルゴンパ)
セルタは有名なラルンガルゴンパに行く際に拠点となる街です。僕が行ったときも基本的に外国人は入れてくれず、成都に強制送還されると言われていましたが、僕は取り締まられることはありませんでした。たまたま運がよかっただけだと思います。というかその辺りの情報を知らずに特攻していて、出会った日本人に無謀さを諭されました。
ちなみに僕が行った2017年時点ではカンゼの乗り合いバンが集まる場所で、セルタ行きを探していたらドライバーのおじさんたちが「検問のない深夜なら入れるぞ」と教えてくれ、深夜発でセルタに連れ行ってもらえました。成都からセルタの直行便はやはりリスクが高いと思います。
※2019年現在セルタ付近は外国人立ち入り禁止で、捕まるとスパイ容疑で懲役刑や死刑になり得ると発表されています。日本人バックパッカーの間で近年人気になっており、特に日本人を厳しく取り締まっているという情報もあるので決まりには従いましょう。
ラルンガルゴンパではゴンパからすぐのところに鳥葬場が設けられており、ここでほぼ毎日午後から鳥葬が行われているそうです。お昼ごろになると観光客たちがゴンパの出口まで降りていき、タクシーなどに乗って、鳥葬場へ向かっていきました。僕もゴンパの駐車場でタクシーお兄さんっぽい人たちに声をかけ、鳥葬場へ連れて行ってもらいました。こんな場所。
ラルンガルゴンパの鳥葬場はもはやテーマパークと化していました。右手の斜面にたくさんの中国人観光客がいます。僕も観光客として見物に来ている以上、何も言えませんが、「なんだかなぁ...」と悲しい気持ちになりました。
ドクロのオブジェや地獄を思わせる彫刻なんかがあって、面食らってしまいました。漢民族の資本が入っているんでしょうか。よくわかりませんが、実際ラルンガルゴンパ自体にも中国人観光客もかなり来ていて、観光地になりつつある印象を受けました。
僕は少し到着が遅かったので、すでにハゲワシが肉片を奪い合っているところでした。儀式や解体もここで行うのかは定かではありませんが、そうではないといいなと思いました。
まとめ
リタンの鳥葬は本当に地元の人たちによって行われている鳥葬でしたが、ラルンガルゴンパのものはショーのようになってる印象がありました。近年、ラルンガルゴンパが旅行者や中国人の間で人気になったことを受け、観光地化されつつあるのでしょうか。「そのままのチベットであってほしい」というのは身勝手な願いで、自分も旅行者として行っている以上何も言えませんが、鳥葬場がテーマパークのようになっていたのは衝撃的でした。
チベットはこれまでも中国から厳しい弾圧を受けてきました。そんな彼らは自分たちの大切な場所に漢民族の観光客が押し寄せるのをどんな思いで見ているのだろうと、考えてしまいますね。日本は単一民族の国家であり、そこに暮らす僕らは、民族の対立あるいは共存という概念に対して実感が湧きにくいような気がします。
今回は動物成分薄めですが、全ての人々が幸せに暮らせるそんな日が来ることを祈りながら、終わりにしたいと思います。
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