「カエルツボカビ症」という病気を聞いたことがあるでしょうか。数十年以上前から問題になっているカエルの病気ですが、現在でも多くのカエルの命を奪っています。近年では「イモリツボカビ」というイモリの仲間を殺すカビも出現し、新たな問題となっています。今回はそんはツボカビについて見ていきたいと思います。
カエル大量死の謎
1970年代、アメリカ大陸の森でカエルが大量に死んでいるのが見つかりました。その後も手つかずの密林や開発を制限している保護区でも、カエルの大量死は続き、多くの種が絶滅しました。同様の大量死はオーストラリアでも起こっています。
同時多発的にカエルが死んでいくのはなぜか?様々な説が叫ばれました。
- 地球温暖化説
- 外来種による圧力説
- オゾン層破壊による紫外線増加説
- 農薬や殺虫剤による環境汚染説
- 環境破壊による生息地の減少
- 未知の病気説
世の中の環境問題への関心も高まっていく中、こうした論争は激化していきました。農薬汚染や外来種のせいだとすれば、カエルの死はもっと局地的なものであるはずだとか、手付かずの密林でも大量死が発生しているんだから生息地の破壊とは関係が薄いとか。しかしなかなか決定的な証拠が見つかりませんでした。
そんな中、アメリカの研究チームによってカビの一種であるツボカビの感染が健康なカエルを殺す、ということが示されました。これまでカビの感染は一時的なもので、そもそも健康な個体に劇的な症状を与えるような例はほとんど報告されていなかったため、この研究は衝撃的でした。
その後死んだカエルを調べると、次々にこのツボカビに感染していることがわかり、このカエルツボカビBatrachochytrium dendrobatidis (Bd) が原因であるという説が広く認められました。カエルツボカビは1999年にようやく新属新種として登録されました。
カエルツボカビ (Batrachochytrium dendrobatidis) の名前はコバルトヤドクガエル (Dendrobatidae azureus)から分離されたことに由来する。
カエルツボカビ症の脅威
200種以上が絶滅へ
カエルツボカビは生態系にとって史上最悪の病原体とも言われています。1990年台頃にはすでに全世界に広まっており、感受性があるカエルは500種以上だそうです (カエルは全4400種程)。これまで約200種のカエルを絶滅かそれに近い状態に追いやり、生物多様性に大きな影響を与えています。対策が急がれますが、野生下のカエルを守る有効な手段は今のところありません。
なぜカビでカエルが死ぬか
カエルツボカビは両生類の皮膚で増殖します。このカビの増殖には蛋白質のケラチンが利用されます。通常カエルのケラチンはオタマジャクシでは口の周囲にのみ存在しますが、変態と共にケラチンの分布が増え、それに伴ってカエルツボカビも増え、症状を引き起こします。
カエルたち両生類は、皮膚から酸素や水分を吸収するため、カビの増殖によって皮膚呼吸や体内の浸透圧の調整を阻害されると考えられています。
オーストラリアの研究では、カビの増殖によって電解質の輸送が阻害されて心不全が引き起こされることが示されています。感染した個体は皮膚の表面の電解質の輸送が 50%超 抑制され、血漿中のナトリウム、カリウムの濃度がそれぞれ減少するそうです。
感染した両生類は次第に無気力になり、皮膚がはがれ落ちて、数週間で死に至ります。
カビはどこから来た?
カエルツボカビがどこから来たかはよくわかっていませんでした。しかし、最近のの研究で朝鮮半島においてカエルツボカビの遺伝的多様性が高く、古くから存在している可能性高いことが示されました。
日本でもカエルツボカビの感染例はあるものの、大量死が起こっていないことから日本でも古くからこのカビが存在し、日本のカエルは耐性をもっているのではないかとも言われています。
新たな脅威イモリツボカビ
2013年、カエルツボカビの被害が続く中、さらに悪いニュースが発表されました。それがイモリツボカビです。2009年から2012年にかけて、このカビはオランダに生息するファイアサラマンダーの個体数を99%以上も激減させたと報告されています。
すでにアメリカではサラマンダーの輸入を禁止しています。
ファイアサラマンダー。
僕たちにできること
これらのカエルを一匹一匹治療する方法はありますが、野生下のカエルを救うすべはありません。僕らにできることは、やはりペットとして飼育したいからといって安易に両生類を輸入しないことくらいでしょうか。
みなが生物多様性を守ろうと団結して、これからの問題に立ち向かっていきたいですね。
Batrachochytrium dendrobatidis